前回に引き続き、道徳のお話をしていきたと思います。
中学校で、道徳が教科化され、1年がたちましたが、みなさんは道徳の授業が好きですか。
同僚の先生の話を聞いていると、残念ながら、「あまり好きではない。」という先生が多いです。
私は、担当教科である英語よりも、道徳に教材研究に時間をかけています。。。
だからこそ、中学校の先生方も、先生方の授業を受ける生徒も、「心が揺さぶられる、考え流のが楽しい」と思える授業の作り方を発信していきたいと思います。
では、さっそく始めましょう♪
よりよく生きる喜びとは?

A~Dまである、内容項目のうち、1番扱うことが難しいのが、「D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること」ではないでしょうか。
自然愛護の授業も、テーマが壮大で、いつも避けてしまう項目のひとつです。
今回は、「D(22)よりよく生きる喜び」について、扱っていきたいと思います。
人間には自らの弱さや醜さを克服する強さや気高 く生きようとする心があることを理解し,人間として生きることに喜びを見いだすこと。
私自身が、この内容項目で授業をした時には、もっと噛み砕いて、授業の工夫を考えていきました。
この内容項目を理解するステップと授業の工夫
- 弱さや醜さを自覚する。
- 自覚させるために、後悔した経験や自分の弱さを実感した経験について、アンケートをとる。
- それに対し、懺悔する授業になってはいけないし、それが目的ではないので、そこには注目しない。
- 弱さや醜さが人間ならば、誰しももっているものだと認識する。
- 人間が、自分の弱さや醜さを受けいれ、それを克服しようとする姿勢が美しいということ、それは人間にしかできないことだと気づく。
- 弱さや醜さを乗り越えようと葛藤し、よりよく生きることこそが、人間である喜びだと気づく。
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こう考えていくと、頭の中がすっきりし、生徒にどのような発問をすべきかが自ずと見えてきませんか。
「よりよく生きる喜び」を考えさせていく上で、やってはいけないことは、それは・・・
過去の失敗や自分の弱さや醜さを懺悔し、後悔するような時間になってしまうこと。
人間が弱さや醜さを乗り越え、成長していけると気づき、その姿に喜びを見出すこと、プラスの感情を持てる時間になるといいなと思っています。
D(22)よりよく生きる喜びのテーマの例
あまり、扱ったことがない項目と思われがちですが、私は教科書でも、その他の教材でも扱ったことがあります。
今回は、最近授業で行った「償い」というお話について、詳しく説明していきたいます。
場合によっては、内容項目は生命の尊さでもよいと思います。
現在は教科書に載っていませんが、(もしかしたら、どこかの出版会社さんにあったかも?)以前、資料集に載っているのを見たいことがあるので、ご存知の先生も多いかもしれません。
また、免許センターや違反者講習でも、耳にしたことがある人もいるかもしれません。
これは、さだまさしさんが作詞・作曲した「償い」という曲について考えていく授業です。
歌詞をご紹介します。
償い 作詞・作曲さだまさし
1.月末になるとゆうちゃんは薄い給料袋の封も切らずに
必ず横町の角にある郵便局へとび込んでゆくのだった
仲間はそんな彼をみてみんな貯金が趣味のしみったれた奴だと
飲んだ勢いで嘲笑ってもゆうちゃんはニコニコ笑うばかり
僕だけが知っているのだ彼はここへ来る前にたった一度だけ
たった一度だけ哀しい誤ちを犯してしまったのだ
2.配達帰りの雨の夜横断歩道の人影に
ブレーキが間にあわなかった彼はその日とても疲れてた
人殺しあんたを許さないと彼をののしった
被害者の奥さんの涙の足元で
彼はひたすら大声で泣き乍ら
ただ頭を床にこすりつけるだけだった
3.それから彼は人が変わった何もかも
忘れて働いて働いて
償いきれるはずもないがせめてもと
毎月あの人に仕送りをしている
4.今日ゆうちゃんが僕の部屋へ泣き乍ら走り込んで来た
しゃくりあげ乍ら彼は一通の手紙を抱きしめていた
それは事件から数えてようやく七年目に初めて
あの奥さんから初めて彼宛に届いた便り
「ありがとうあなたの優しい気持ちはとてもよくわかりました
だからどうぞ送金はやめて下さいあなたの文字を見る度に
主人を思い出して辛いのですあなたの気持ちはわかるけど
それよりどうかもうあなたご自身の人生をもとに戻してあげて欲しい」
5.手紙の中身はどうでもよかったそれよりも
償いきれるはずもないあの人から
返事が来たのがありがたくてありがたくて
ありがたくて ありがたくて ありがたくて
6.神様って思わず僕は叫んでいた
彼は許されたと思っていいのですか
来月も郵便局へ通うはずの
やさしい人を許してくれてありがとう
7.人間って哀しいねだってみんなやさしい
それが傷つけあってかばいあって
何だかもらい泣きの涙がとまらなくて
とまらなくて とまらなくて とまらなくて |
さだまさしの知人はこの被害者の女性。曲中にでてくるゆうちゃんは、本当に誠実な真面目な男性。7年後に送金をもうやめてほしいと奥さんから手紙をもらった後も、送金を続けたらしい。この曲は、少年4年がサラリーマンの男性を死傷させた事件で、裁判官が少年たちから反省の気持ちが伝わらないとこの曲を知ってほしいと、別の裁判中に聞かせたということで有名になったという話もある。
「償い」の授業の進め方
準備するもの:歌詞カード、発問の書かれた紙(黒板に貼る用)、雨の日の車の渋滞の写真、その他イラスト、「償い」のCD、TV
授業の展開 |
生徒の反応 |
- あいさつ
- 「償い」の歌詞の1番までを読む。
- 発問1「ゆうちゃんはおかしてしまった悲しい過ちってなんだろう?」と問いかける。(聞くだけ、書かない)
- 「実際ゆうちゃんがしてしまったこと・・・、歌詞の続きを読みます。」といい、2〜4の手紙の内容の前まで、読み進める。
- 発問2「本当にわざとではないが、奪ってしまった命。旦那さんを失った奥さんから、7年後に届いた手紙の内容はどんな物だったと思う?」(ノート、ワークシートに書かせた)
- 発問2の話合い(グループ3〜4人)→発表
- 歌詞の5〜6を読み進める。
- 発問3 『歌詞の7”人間って「 」だってみんな「 」”に考えた歌詞を埋めてみよう。』(ノート、ワークシートに書かせた)
- 発問3の話合い(グループ3〜4人)→ピックアップして発表
- 最後まで歌詞を読み、曲をかける。
曲は、映像なしでも良いが、できれば中学校の先生が作ったyoutubeの動画を見せてあげてほしい。(著作権等あるらしいが・・・)
償い 動画
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- 「借金」「ギャンブル」「暴力」「窃盗・横領」「殺人」などが生徒からは出てくる。
- 想像することでちょっと楽しい雰囲気。
- 雰囲気が変わる。「え・・・殺人」と重々しい雰囲気。
- 「もうお金は大丈夫です。お金が送られてくるたびに、思い出してつらい。」という意見から、「自分のためにつかってほしい。ありがとう。」という内容、そして、「いくらお金をもらっても旦那さんは帰らない。」本当に様々な意見が出た。
- 「人間ってかなしい だってみんな間違いをおかす」
- 「人間って優しい だってみんな同じ間違いをする」
- 「人間って儚い だってみんないのちはひとつ」
- 一人一人、オリジナルの歌詞がとてもよかった。
- 「私がゆうちゃんだったら、同じことをして償えるのだろうかと思った。」、「ゆうちゃんも奥さんも素晴らしい。ゆうちゃんが償いの気持ちを伝え続けたから、奥さんにもその気持ちが伝わった。」、「人間って不思議 人間の優しさが人間の過ちを支えるから」「今までで1番難しくて深い授業だった。」と書いてくれた。
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私がこの授業で、生徒たちはゆうちゃんと奥さんの姿から「人間として気高く、よりよく生きる喜び」を感じ取ったと思います。
生徒たちの考え方にに少しでも変化があったのなら、この授業が大成功だと思います。
最後に
いかかでしたでしょうか。
とても難しいし、悲しい話ではあるのですが、人間の気高さに触れられる好きな教材の一つです。
ぜひ、参考になさって下さい。